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東京高等裁判所 昭和59年(行コ)29号 判決 1984年11月14日

千葉県松戸市松戸二〇六三番地一三

控訴人

篠崎建設株式会社

右代表者代表取締役

篠崎晧英

右訴訟代理人弁護士

田中健恵

千葉県松戸市小根本字久保五三番地三

被控訴人

松戸税務署長 吉田和夫

右指定代理人

川野辺充子

右同

岩谷久明

右同

斎藤正和

右同

鈴木徹

右当事者間の法人税等更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和五三年三月二八日付けで控訴人の昭和五一年八月一日から昭和五二年七月三一日までの事業年度の法人税の所得金額を二五八八万三九一円とする更正処分のうち所得金額一八七万五七五一円を超える部分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上の主張並びに証拠の関係は、次に付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。ただし、原判決二枚目表一〇行目「更正」の次に「処分」を加える。

(控訴人の陳述)

1 「時価」について、通常の取引によらない時価なるものが考えられるところ、本件は通常の取引ではないから、その特異性を無視した被控訴人主張の時価の算定方法は合理性を欠く。

2 控訴人は顧問税理士石原義友に対し本件マンションの三〇四号室を代金八六〇万円で譲渡しているが、被控訴人は、右譲渡については売上計上もれがあるとは判断していないのであるから、右の程度の譲渡価額までは通常の取引による時価相当額と判断しているものと解釈される。にもかかわらず、本件物件の譲渡についてのみ石原税理士との取引価格をはるかに上回る時価なるものを持ち出し、事前に何らの勧告もなく一方的に更正処分をするのは、余りにも恣意的な処分というべきであり、不適法である。

理由

一  当裁判所は、控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次に加削訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。ただし、「時価相当額」とあるのは、すべて「時価」に改める。

1  原判決八枚目裏一二行目「それまでに」から九枚目表六行目「ものであり、」までを「既に資産の値上により増加益の形で発生している資産利益を清算して課税する趣旨のものであるから、たとえその譲渡が無償又は時価より低廉な価格でなされたとしても、当該資産の取得価額と時価との差額である資産利益に相当する益金があるものとしなければならないことは当然であり、本件物件の譲渡によって控訴人は現実の譲渡価額ではなく本件物件の時価に相当する収益(売上げ)があるものといわなければならない。」に改め、一〇枚目表一〇行目「点で」の次に「極めて」を加える。

2  原判決一二枚目中裏五行目「している」の次に「が、被控訴人は本件更正処分において、本件物件の譲渡のみを低廉譲渡として時価と譲渡価額との差額を控訴人の収益に加算する処理をし、右石原に対する本件マンション三〇四号室の譲渡については右の処理をしていないこと」を加え、同行目「事実」を削り、同行目「認められるが、」の次に「被控訴人が控訴人の石原に対する右譲渡を低廉譲渡として譲渡金額と時価との差額を控訴人の収益に加算する処理をしていないからといって、石原に対する譲渡金額が直ちに時価によるものと速断することができないことはいうまでもなく、」を、裏六行目「証言」の次に「及び証人石原義友の証言により真正に成立したものと認められる甲第五号証」をそれぞれ加える。

3  控訴人は、時価について通常の取引によらない時価なるものが考えられ、本件取引ではないから、被控訴人主張の時価の算定方法は合理性を欠くと主張するが、時価とは当該資産の市場における客観的な交換価値を意味するものであり、当事者の縁故関係その他特殊な取引状況の下で形成された取引価格は時価というに値しない。本件物件の前記時価の算定方法は合理性に欠けるところはなく、控訴人の右主張は採用することができない。

4  控訴人は本件マンションの三〇四号室を石原義友に代金八六〇万円で譲渡したが、被控訴人は右譲渡として時価と譲渡金額の差額を控訴人の収益に加算していないことは前記のとおりである。しかし、右の事実は、本件更正処分に係る所得金額が過少であることを示すものにすぎず、それ自体としては本件更正処分を違法ならしめる事情に当たらないし、被控訴人が事前に控訴人に対し修正申告の勧告をしないで本件更正処分をしたとしても、そのゆえをもって本件更正処分が恣意的な処分であるということはできず、その他本件更正処分が恣意的なものであると認めるべき証拠はない。

二  よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 近藤浩武 裁判官 林醇 裁判官 渡辺等)

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